
【FP解説】老人扶養控除とは?親を扶養にいれるメリットとデメリットをわかりやすく解説
2024年2月16日 (2024年4月4日更新)
同居している老親などを健康保険の扶養にいれると、扶養控除が適用され、税金が安くなる場合があります。ただし税法上で老人扶養親族とみなされるには条件があり、70歳以上で同居老親等なら58万円、同居老親以外であれば48万円、そして70歳以下であれば一般の扶養家族とみなされ38万円と控除額が変わってきます。
ただし税金が安くなるかわりに、介護サービスを利用したいとき費用がかさんでしまうなどの注意点もあります。同居している親を扶養者にするメリットとデメリットをご案内します。
親を扶養にいれる条件と手続き
まずは、親を扶養にいれる条件や手続きについて解説しましょう。
親を扶養にいれる条件
親を税法上の扶養にいれる条件と、健康保険上の扶養にいれる条件は少し違います。親を扶養にいれるときの条件は、それぞれ以下の通りです。
【親を税法上の扶養にいれる条件】
- 納税者本人と生計を一にしている
同居していて財布がひとつの状態であればこの条件はクリアできます。別居している状態であっても、納税者本人が単身赴任をしているときや、親に定期的に生活費を送金している場合は当てはまります。
- 親の合計所得金額が48万円以下であること
合計所得金額とは、収入のことではありません。年金や給与といった収入から控除額を引いた金額の合計額を指します。
もし、親が年金だけをもらっている状態であれば、年金収入が158万円までであれば扶養にいれることが可能です。年金以外にアルバイトなどをしている場合は、少し計算が複雑になります。こちらについては、「親を扶養にいれる注意点」で詳しく解説します。
- 青色事業専従者や白色事業専従者でないこと
ご自身が会社員であり、また、自営しているきょうだいのもとで親が働いていなければ、こちらの条件はクリアできます。
青色申告をしている事業主のもとで働く家族従業員を、青色事業専従者といいます。また、白色申告を行う納税者と生計を共にする親族で、年間6ヶ月以上、納税者が営む事業に従事している人を白色事業専従者といいます。
このうえ、対象となる親が70歳以上であれば老人扶養親族とみなされ、58万円が控除額となります。70歳未満であれば、控除対象扶養親族とみなされ、38万円が控除額となります。
【親を健康保険上の扶養にいれる条件】
- 親が75歳未満である
75歳以上になると健康保険から外れ、後期高齢者医療制度の被保険者になります。
- 親が扶養者となる自分の収入で暮らしを成り立たせている
自分の実親である場合は、同居・別居を問いません。ただし配偶者の実親(自分の義理の親)である場合は、同居のみが条件です。
- 対象となる同居中の親の年間収入が130万円未満で、かつ自分の年収の半分以下である
親が60歳以上、またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満となります。
- 対象となる別居実親の年間収入が130万円未満で、かつ自分の援助による収入額より少ない
親が60歳以上、またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満となります。
親を扶養にいれるときの手続き
親を扶養にいれたいと考えたら、勤務先の総務や人事といった担当部署に相談します。自分が確定申告をする必要がない場合には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を渡されたら、該当箇所に記入して提出しましょう。年末調整時に扶養が適用されます。
自分で確定申告をする場合には、申告書の「配偶者や親族に関する事項」に記入します。
なお、健康保険の扶養手続きについても、勤務先を通して行います。勤務先に「被扶養者(異動)届」を提出することで、勤務先は日本年金機構に書類を提出し、適用となります。
親を扶養にいれるメリット
親を扶養にいれると、税法上にも、健康保険上でもメリットがあります。それぞれ解説します。
税法上のメリット①:子の所得税が節税できる
扶養控除により、税金がかかる所得の金額が少なくなり、税金が安くなります。どのくらい安くなるかは年収によっても違いますが、数万円から10数万円の節税効果が期待できます。
税法上のメリット②:親の所得税が節税できる
扶養に入るため親が意識して収入を抑えることで、税金の負担が減ります。自活しなければ、税金が取られる分だけ働かなければと定年後も頑張っていた親であれば、ホッと一息つけるでしょう。
健康保険上のメリット①:親は健康保険料の負担がなくなる
子どもの健康保険に入れば、親は健康保険料を納めなくて済みます。年金暮らしの親にとって、月々の負担が少なくなるのは嬉しいことです。
健康保険上のメリット②:子は健康保険料が増えない
会社員の場合、扶養人数が増えても、健康保険料の金額は変わりません。世帯全体における保険料負担が減ることになります。
親を扶養にいれるデメリット
親を扶養にいれることには、デメリットもあります。デメリットについても、税法上と健康保険上に分けて解説します。
税法上のデメリット:新たに生計を一にする場合、出費が増える
親を税法上の扶養にいれる場合、生計を一にしていることが条件となります。もし、親を扶養にいれるために、新たに同居生活を始めたり、財布を一つにしたりしたなら、親の生活を支えるための出費が増えることでしょう。
健康保険上のデメリット①:親の高額医療費の自己負担限度額が大きくなる可能性がある
もし手術や入院で高額な医療費を支払わなければならなくなったとき、「高額寮費制度」を使うと、自己負担限度額を超えるぶんの出費は返還されます。しかし世帯としての収入が高いと、自己負担限度額も高めに設定されます。
親が扶養に入ってしまうと子どもの収入を基準として計算されてしまうため、医療費がかさむ結果になりかねません。シニア世代は病気やケガが多くなります。今は健康でも、このリスクは覚えておいた方が良さそうです。
健康保険上のデメリット②:親の介護保険料の負担額が高くなる可能性がある
親が65歳以上になると、介護保険料が年金から徴収されるようになります。親がこれまで住民税非課税であり、子どもが住民税課税であった場合は、同一世帯となることで親の介護保険料が高くなる場合があります。
65歳以上の人の介護保険料は、自治体によって基準額が違います。気になる人は、お住まいの自治体のサイトなどで調べてみましょう。
健康保険上のデメリット③:介護サービスの利用料が増える可能性がある
65歳になると、介護保険のサービスを利用できるようになります。サービス費用の利用者負担は1割(一定以上所得者の場合は2割あるいは3割)です。子どもと生計を一にすることで「一定以上所得者」とみなされると、自己負担金が増えてしまいます。
親を扶養にいれる注意点
以上を踏まえ、親を扶養にいれたいと考える人は、以下の3つに注意しましょう。
扶養にいれて最もメリットがあるのは70歳から74歳までの健康な親
親が70歳になるまでは、老人扶養親族とみなされず控除金額が少なめです。75歳以上になると、健康保険上の扶養にいれることはできません。扶養にいれるにはタイミングが重要です。
また、世帯収入が多くなると高額医療費の負担金額や介護サービスの利用料がアップします。持病がある、介護が始まった等の事情がある場合は、もしかしたら扶養にいれない方が出費を抑えられるかもしれません。
新しく同居する人は今後の生活費をシミュレーションしてみる
税金が安くなっても、親と同居することで家計にかなりのダメージが出たら、元も子もありません。まずは親と同居することで出費がどのくらい増えるかをシミュレーションしてみましょう。そして親がどの程度、自分の生活費として年金から家計に補填してくれるかを尋ねましょう。
しばらく扶養にいれてみて、デメリットが大きければ外すのもあり
扶養は新たにいれることも、外すことも可能です。1~2年、親を扶養にいれてみて、デメリットが大きいと感じたときには扶養から外すという選択もできます。扶養から外すときは、市役所で世帯分離を行います。
まとめ
以上、老人扶養控除について解説しました。親を扶養にいれることが得か損かについては、世帯の状況や親の年齢、健康状態によっても違います。とくに高額療養費の自己負担限度額や介護サービス料の負担額などは計算が複雑になるため、どのくらいデメリットがあるかを正確に知るのは難しいことです。
まずは、自分たち家族と親の経済状況を正確に把握することから始めましょう。新たに同居を始めようとする人は、自分だけでなく他の家族の意見も尋ねながら、慎重に進めるのが大事です。
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