老後

【FP解説】「60歳の崖」とは?再雇用時の対策や給料が減額する理由を解説

2025年5月26日

60歳の崖」という言葉があります。60歳になり、定年を延長して仕事を継続したり、再雇用されたりした後に給料がぐっと減ってしまうことを表す言葉です。65歳までの雇用確保が全ての企業に義務化されており、また日本が恒常的な人材不足に陥っているにもかかわらず、賃金が減ってしまうという事態には歯止めがかからないのはなぜでしょうか。給料が減額される理由や、再雇用時に必要となる対策について解説します。

60歳の崖」とは

60歳の崖」とは、60歳になったとたんに、まるで崖から転げ落ちるように給料が激減してしまう問題です。令和5年の民間給与実態統計調査によると、年齢階層別の平均給与のうち、55歳から59歳、60歳から64歳に注目すると、以下のような結果になりました。

【年齢階層別平均給与】

年齢階層

男性

女性

5559

712万円

330万円

545万円

6064

573万円

278万円

445万円

出典:民間給与の実態調査結果(全データ)(PDF/5,496KB)p.21

特に男性の平均給与差が著しく、60歳を境に2割もの給与減となっています。まさに「60歳の崖」といえるでしょう。

仕事の能力などにはさほど差がないのに、年齢が1つ上がっただけで仕事内容が変わり、もしくは仕事の内容がそれほど変わらないのに2割も給与が削減されたら、生活に支障が出てしまう人がたくさん出てしまうことは、容易に想像できます。

60歳の崖」があることを知っている人と、知らない人とでは、資金の用意の仕方や暮らし方が違ってきてしまうでしょう。

再雇用時に給料が下がる理由

なぜ、60歳で給料が下がってしまうのでしょう。その理由は、以下の3つが考えられます。

再雇用時に雇用形態が変わるから

60歳で再雇用契約を交わすとき、正社員から契約社員やパートタイマーに切り替わることがよくあります。これにより、給与が減少してしまいます。

役職手当がなくなるから

正社員のまま継続雇用となる場合であっても、59歳の時点で務めていた役職を退き、責任のより軽い肩書きを与えられることがよくあります。役職を退くため役職手当がなくなり、給与が減少します。

ボーナスに差が出るから

再雇用の際に契約社員やパートタイマーへ切り替わると、そもそもボーナスが支給されなくなる例が多くみられます。また正社員として継続雇用されたとしても、責任のより軽い立場となった分、査定が低くなりボーナスが激減するケースがあります。

再雇用時に活用できる給付制度

定年後、再雇用になり「60歳の崖」を経験したら、以下の給付制度が使えないか検討してみましょう。

高年齢雇用継続基本給付金

高年齢雇用継続基本給付金とは、もといた会社に継続して雇用されている人が、60歳に到達した時点に比べて賃金が75%未満に低下した会社員が、65歳まで利用できる給付金です。60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者であり、被保険者であった期間が5年以上あることが条件とされます

受給額は、2025331日以前に60歳となった方であれば、各月に支払われた賃金の15%を限度として支給されます。202541日以降に60歳となった方は、各月に支払われた賃金の10%を限度として支給されます。支給される期間は、65歳に達する月までです。

支給金額は、賃金の低下率によって変わります。法改正により、202541日から支給率が変わります。詳しくは、以下のリーフレットを参照してください。

参考:令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します[561KB] 

雇用保険の被保険者として雇用されていた期間の全てを合計して5

高年齢再就職給付金

高年齢再就職給付金とは、60歳以上で転職したとき、もとの給与の75%よりも低い賃金で再就職した場合に、再就職先の賃金の15%(20254月1日以降に60歳となった人については10%)を限度として給付されるものです。具体的には、再就職先の賃金月額が、基本手当の基礎となった賃金日額の30日分の75%未満だったときに支給されます。

高年齢再就職給付金を受給するためには、ハローワークで求職の申し込みをし、基本手当(失業手当)を受けなければなりません。また、60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者であり、基本手当についての算定基礎期間が5年以上、再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上あることが条件になります。

また、1年以上雇用されると思われる安定した職業に就いたこと、同じ就職について再就職手当を支給されていないことも条件です。

高年齢再就職給付金が給付される期間は、基本手当の残日数によって違います。再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が200日以上のときは、再就職日の翌日から2年を経過する日の属する月までとなります。なお、100日以上200日未満のときは1年となります。ただし被保険者が65歳に達したら、期間が残っていても、65歳に達した月までとなります。

支給金額は、賃金の低下率によって変わります。法改正により、202541日から支給率が変わります。詳しくは、以下のリーフレットを参照してください。

参考:令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します[561KB]

再雇用時に向けた対策

60歳の崖」は現在、社会問題視されており、「職務の内容が変わらないのに給与が激減するのはおかしい」といった声が多数上がっていることから、各企業や国の対策が待たれている現状です。しかし、改善のための制度が早急に敷かれることはあまり期待できず、前述したように支援のための制度はむしろ縮小化しています。

再雇用時に備えて、「60歳の崖」がなるべく緩やかになるよう、自分でも対策しましょう。例えば、以下のような対策が考えられます。

資産運用

資産運用には様々な種類があります。リスクが少ない定期預金は、既存の銀行よりもネット銀行に預けると金利が有利です。投資を始めるなら、よりリスクの低い分散投資ができる投資信託を始めるか、元本割れのリスクが少ない債券投資から行ってみてはいかがでしょうか。株式投資は、ハイリターンとなる可能性がありますが、リスクも同様に高いものです。

NISA

NISAは税制が優遇されている投資の制度です。少額投資を行う人の利益が非課税になる制度で、年金ではないためいつでも資金化できます。2024年に制度が改正されて、使い勝手がよくなりました。何歳まででも運用が可能なため、「老後の備え」としても、「老後にできる資金運用」としても活用できます。

年金制度の1つであるiDeCoも、よく聞く用語の1つだと思いますが、60歳まで積み立てと運用を行う制度のため、すでにシニア層にさしかかっている人は運用期間が短くなってしまい、あまり魅力がないかと思われます。しかし掛金と運用益が非課税になるため、興味のある人は詳しく調べてみてください。

参考:「NISA」って何?わかりやすく解説(政府広報オンライン)

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】(iDeCo公式サイト)

生活費の見直し

給与が2割削減になるとして、家計は賄えるのか、夫婦で確認しましょう。もし賄えなければ、現状の家計を見直さなければなりません。特に固定費に注目し、コストダウンができるところがないか考えてみましょう。

2割の削減は厳しい」と感じるかもしれませんが、65歳以後は年金生活となり、もっと節約しての生活を強いられるかもしれません。「60歳の崖」を年金生活の前哨戦と捉え、夫婦でなんとか乗りきっていけるよう、案を出し合い、協力して節約しましょう。

まとめ

60歳の崖」がやってくる前に、対策を講じる必要があります。まずは再雇用後、どのような雇用形態になる可能性があるのかを人事に確認しましょう。そしてだいぶ給与が減額になることが分かったら、さまざまな資金運用法を検討するほか、家計を見直すなどして「崖」を緩やかにする方法を模索します。

もし給与の減額に納得できなければ、転職先を探す選択肢もあります。人手不足のさなか、シニアのための転職サイトも登場しているため、参考にしてみましょう。なにより、色々な情報をつかむことが重要です。

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