
【FP解説】相続税の申告に必要な手続きや書類・期限をわかりやすく解説
2023年3月16日 (2023年11月3日更新)
「相続税はお金持ちが払うもの。庶民は関係ない」という時代は過ぎました。近年の法改正以降、相続税の申告が必要な人は激増しています。とはいえ、自分が対象になるのか、申告するためにはいつまでに、どんな手続きをすればよいのかは、なかなかわからないものです。相続税の申告方法や期限、申告に必要な書類など、相続税申告の基本事項を解説します。
相続税の申告対象となる人
相続税の申告対象となる人は、遺産の総額と、法定相続人の数により違ってきます。次の手順で、自分は相続税の申告対象となるかどうかを確かめましょう。
相続税がかかる財産の総額を算出する
まずは相続税がかかる財産の総額を出します。相続税がかかるのは、以下のような財産です。
- 相続や遺贈、死因贈与によって取得した財産
現金、預貯金、有価証券、宝石、土地家屋のほか、特許や著作権などの権利、貸付金も財産にあたります。これらをすべて金銭に見積もります。 - 死亡退職金
- 死亡保険金
被相続人が保険料を負担していたものに限ります。 - 生前に贈与を受けて、贈与税の納税猶予の特例を受けていた農地や事業資産など
- 被相続人の死亡前3年以内に受けた財産贈与(特例を受けた場合を除く)
他、相続税がかかる財産とみなされるものは、国税庁のページを参照してください。
相続税がかからない財産を差し引く
財産の中には、相続税がかからない財産もあります。これらを遺産総額から差し引きます。主なものは以下の通りです。
- 墓地、墓石、仏壇、仏具、神をまつる道具など日常礼拝をしている祭祀財産
骨董的価値があるなど投資対象になるものや、商品は除きます。 - 公益事業に使われることが確実なもの
- 条例によって障碍者や障害者の扶養者が取得する給付金の権利
- 相続税の対象となる生命保険金のうち、500万円に法定相続人の数をかけた金額
- 葬儀費用
香典返しや、初七日など法要のための費用は含まれません。 - 債務
未納税金も含みます。
相続税の基礎控除額を計算する
基礎控除額の分までは、相続税がかかりません。基礎控除額は、
3000万円+600万円×法定相続人の数
です。
妻と子ども2人が法定相続人の場合、基礎控除額は、
3000万円+600万円×3=4800万円
となり、4800万円までは相続税がかかりません。
相続税がかかる場合は各相続人の納付税額を計算し合算する
基礎控除額を引いた課税金額を、相続人の法定相続分に従って割り振ります。そこに税率をかけ、各相続人の税額を算出した後に、合算して相続税の総額を出します。なぜこのような回りくどい方法を使うかといえば、相続税の税率が、法定相続分に応ずる取得金額によって違うためです。
相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
― |
1,000万円超~3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
5,000万円超~1億円以下 |
30% |
700万円 |
1億円超~2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
2億円超~3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
3億円超~6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超~ |
55% |
7,200万円 |
相続税の総額を実際の相続割合で按分し配偶者控除が適用できるかをみる
相続税の総額を、もう一度相続人の相続割合で按分します。配偶者は、取得遺産の1億6000万円までか、遺産総額の1/2までであれば相続税がかかりません。ただ、配偶者控除を受けるためにも、相続税の申告書提出が必要になるため注意しましょう。
詳しい計算方法については国税庁「財産を相続したとき」を参照ください。
計算が複雑になる場合は専門家に相談したほうがよいでしょう。
相続税の税率と計算方法をわかりやすく解説!税金を抑えるための節税方法とは
相続税の申告の手続きと流れ
相続税の申告は、故人の住所地を管轄する税務署で行います。
手続きと流れは以下の通りです。
申告書と添付書類を用意する
次項で解説する申告書と添付書類を用意します。申告書や添付書類は多岐にわたるので、相続税がかかると認識したら、速やかに確認し、用意を始めましょう。
税務署への持参または送付により申告書を提出し、納税する
申告書と必要書類を持参あるいは送付し、納税します。納税は、金融機関や郵便局窓口でもできます。
相続税は現金での一括納付が原則です。しかし、事前に税務署に相談し、許可を受ければ、次のような納付方法でも可とされます。
- 延納
(何年かに分けて納める) - 物納
(相続財産そのもので納める)
金額が多額になり、一括納付は難しいと思ったら、早めに税務署へ相談しましょう。
相続税の申告に必要な書類と申告期限
必要書類や申告期限について、それぞれご案内します。
相続税の申告に必要な書類
- 申告書
相続税の申告書等の様式は、国税庁HPからダウンロードできます。 - 被相続人の戸籍謄本、住民票の除票、死亡診断書のコピー
- 各相続人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明、マイナンバーカードの写し、本人確認書類
- 遺言書または遺産分割協議書
遺産相続の手続きに必要な戸籍謄本とは?必要な範囲や取得方法を解説
相続税の申告期限
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。提出期限が土日祝日にあたる場合は、翌日が期限となります。期限を過ぎると、加算税や延滞税がかかる可能性があります。
相続税の申告の際に注意すること
申告する際に注意することを説明する
なるべく早く取り掛かる
申告期限の「亡くなってから10ヶ月」は、ずいぶん猶予があるように思えます。しかし、相続財産が多岐にわたる場合、また相続人が多数いる場合、必要な書類を集めるのにかなりの時間を要します。身内が亡くなったら速やかに財産調査を始め、相続税が必要かどうかだけでも押さえておきましょう。
土地評価額に注意
相続財産を金銭に見積もるには、相続発生時の価格で換算しなければなりません。つまり土地建物の場合は、身内が亡くなった年の路線価を参考に換算します。土地評価額は毎年7月に更新されるので注意しましょう。
多大な労力が必要と感じたら税理士への相談も検討する
相続人が働き盛りの世代であれば、また個人の住所地から離れて暮らしている場合は、相続税の申告が特に難しくなりがちです。必要書類には官公庁が発行しているものが多く、平日の日中を手続きやそのための移動に割かなければなりません。もたもたしているうちに申告期限が過ぎてしまうということになりがちです。
困難を感じたら、税理士への相談も検討しましょう。相続税に強みを持つ税理士がおすすめです。税理士に依頼すれば、申告後に税務調査が入ったとしても、税理士が対応してくれます。
財産総額と法定相続人の把握が第一歩
相続税がかかるか不安なら、まずは遺産総額を把握しなければなりません。また、控除対象の法定相続人が誰になるのかも明確に把握しておきましょう。とくに養子がいる場合は要注意です。被相続人に実の子どもがいる場合、税控除の対象となる養子は一人だけです。被相続人に実の子どもがいない場合は、二人までです。
家庭環境が複雑な場合や、遺産を全て追えない場合は、無理せず税理士に相談するのがいいでしょう。税理士ほど手取り足取りではありませんが、税務署への相談も可能です。
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